伊勢物語 - 050

 昔、をとこ有りけり。うらむる人をうらみて、
  鳥のこをとをづつとをはかさぬとも
   おもはぬ人をおもふものかは
といへりければ、
  あさつゆはきえのこりてもありぬべし
   たれかこの世をたのみはつべき
又、をとこ、
  吹風にこぞの桜はちらずとも
   あなたのみがた人の心は
又、女、返し、
  ゆく水にかずかくよりもはかなきは
   おもはぬ人を思ふなりけり
又、をとこ、
  ゆくみづとすぐるよはひとちる花と
   いづれまててふことをきくらん
あだくらべ、かたみにしけるをとこ女の、しのびありきしけることなるべし。

伊勢物語 - 051