昔、をとこ有りけり。うらむる人をうらみて、
鳥のこをとをづつとをはかさぬとも
おもはぬ人をおもふものかは
といへりければ、
あさつゆはきえのこりてもありぬべし
たれかこの世をたのみはつべき
又、をとこ、
吹風にこぞの桜はちらずとも
あなたのみがた人の心は
又、女、返し、
ゆく水にかずかくよりもはかなきは
おもはぬ人を思ふなりけり
又、をとこ、
ゆくみづとすぐるよはひとちる花と
いづれまててふことをきくらん
あだくらべ、かたみにしけるをとこ女の、しのびありきしけることなるべし。