むかし、をとこ、うひかうぶりして、ならの京、かすがのさとに、しるよしして、かりにいにけり。そのさとに、いとなまめいたるをんなはらからすみけり。このをとこかいまみてけり。おもほえず、ふるさとにいとはしたなくてありければ、ここちまどひにけり。をとこのきたりけるかりぎぬのすそをきりて、うたをかきてやる。そのをとこ、しのぶずりのかりぎぬをなむきたりける。
かすがののわかむらさきのすり衣
しのぶのみだれかぎりしられず
となむおいづきていひやりける。ついでおもしろきことともや思ひけん。
みちのくの忍ぶもぢすりたれゆゑに
みだれそめにし我ならなくに
といふうたの心ばへなり。むかし人は、かくいちはやきみやびをなんしける。