伊勢物語 - 058

 むかし、心つきて色ごのみなるをとこ、ながをかといふ所に、家つくりてをりけり。そこのとなりなりける宮はらに、こともなき女どもの、ゐなかなりければ、田からんとて、このをとこのあるを見て、「いみじのすき物のしわざや」とて、あつまりて、いりきければ、このをとこ、にげておくにかくれにければ、女、
  あれにけりあはれいく世のやどなれや
   すみけんひとのおとづれもせぬ
といひて、この宮に、あつまりきゐてありければ、このをとこ、
  むぐらおひてあれたるやどのうれたきは
   かりにもおにのすだくなりけり
とてなむいだしたりける。この女ども、「ほひろはむ」といひければ、
  うちわびておちぼひろふときかませば
   我も田づらにゆかましものを