伊勢物語 - 075

 昔、をとこ、「伊勢のくににゐていきてあらむ」といひければ、女、
  おほよどのはまにおふてふ見るからに
   心はなぎぬかたらはねども
といひて、ましてつれなかりければ、をとこ、
  袖ぬれてあまのかりほすわたつうみの
   見るをあふにてやまむとやする
女、
  いはまよりおふるみるめしつれなくは
   しほひしほみちかひもありなん
又、をとこ、
  なみだにぞぬれつつしぼる世の
   人のつらき心はそでのしづくか
世にあふことかたき女になん。

伊勢物語 - 076