伊勢物語 - 012

 むかし、をとこ有りけり。人のむすめをぬすみて、むさしのへゐてゆくほどに、ぬす人なりければ、くにのかみにからめられにけり。女をばくさむらのなかにおきて、にげにけり。みちくるひと、「この野はぬす人あなり」とて、火つけむとす。女、わびて、
  むさしのはけふはなやきそわかくさの
   つまもこもれりわれもこもれり
とよみけるを、きゝて、女をばとりて、ともにゐていにけり。

伊勢物語 - 013