むかし、をとこ、みちのくににすずろにゆきいたりにけり。そこなる女、京のひとはめづらかにやおぼえけん、せちにおもへる心なんありける。さて、かの女、
なかなかにこひにしなずはくはこにぞ
なるべかりけるたまのをばかり
うたさへぞひなびたりける。さすがにあはれとやおもひけん、いきてねにけり。夜ふかくいでにけれは、女、
夜もあけばきつにはめなでくたかけの
まだきになきてせなをやりつる
といへるに、をとこ、「京へなんまかる」とて、
くりはらのあねはの松の人ならば
みやこのつとにいざといはましを
といへりければ、よろこぼひて、「おもひけらし」とぞいひをりける。