伊勢物語 - 014

 むかし、をとこ、みちのくににすずろにゆきいたりにけり。そこなる女、京のひとはめづらかにやおぼえけん、せちにおもへる心なんありける。さて、かの女、
  なかなかにこひにしなずはくはこにぞ
   なるべかりけるたまのをばかり
うたさへぞひなびたりける。さすがにあはれとやおもひけん、いきてねにけり。夜ふかくいでにけれは、女、
  夜もあけばきつにはめなでくたかけの
   まだきになきてせなをやりつる
といへるに、をとこ、「京へなんまかる」とて、
  くりはらのあねはの松の人ならば
   みやこのつとにいざといはましを
といへりければ、よろこぼひて、「おもひけらし」とぞいひをりける。

伊勢物語 - 015