むかし、きのありつねといふ人有りけり。三世のみかどにつかうまつりて、時にあひけれど、のちは、世かはり、時うつりにければ、世のつねの人のごともあらず。人がらは、心うつくしく、あてはかなることをこのみて、こと人にもにず、まづしくへても、猶、むかしよかりし時の心ながら、よのつねのこともしらず。としごろあひなれたるめ、やうやうとこはなれて、つひにあまになりて、あねのさきだちてなりたるところへゆくを、をとこ、まことにむつまじきことこそなかりけれ、「いまは」とゆくを、いとあはれと思ひけれど、まづしければ、するわざもなかりけり。おもひわびて、ねむごろにあひかたらひけるともだちのもとに、「かうかう。いまはとてまかるを、なにごともいささかなることもえせで、つかはすこと」とかきて、おくに、
手ををりてあひ見し事をかぞふれば
とをといひつつよつはへにけり
かのともだち、これを見て、いとあはれと思ひて、よるの物までおくりてよめる。
年だにもとをとてよつはへにけるを
いくたびきみをたのみきぬらん
かくいひやりたりければ、
これやこのあまのは衣むべしこそ
きみがみけしとたてまつりけれ
よろこびにたへで、又、
秋やくるつゆやまがふとおもふまで
あるは涙のふるにぞ有りける