むかし、をとこ、武蔵のくにまでまどひありきけり。さて、そのくににある女をよばひけり。ちちはこと人にあはせむといひけるを、ははなんあてなる人に心つけたりける。ちちはなほびとにて、ははなんふぢはらなりける。さてなん、あてなる人にと思ひける。このむこがねによみておこせたりける。すむ所なむ、いるまのこほり、みよしののさとなりける。
みよしののたのむのかりもひたぶるに
きみがかたにぞよるとなくなる
むこがね、返し、
わが方によるとなくなるみよしのの
たのむのかりをいつかわすれむ
となむ。人のくににても、猶、かかることなん、やまざりける。