むかし、をとこ有りけり。いかがありけむ、そのをとこすまずなりにけり。のちにをとこありけれど、こあるなかなりければ、こまかにこそあらねど、時々ものいひおこせけり。女がたに、ゑかく人なりければ、かきにやれりけるを、いまのをとこの物すとて、ひとひふつかおこせざりけり。かのをとこ、いとつらく、「おのがきこゆる事をば、いままでたまはねば、ことわりとおもへど、猶、人をばうらみつべき物になんありける」とて、ろうじて、よみてやれりける。時は秋になんありける。
秋の夜は春ひわするる物なれや
かすみにきりやちへまさるらん
となんよめりける。女、返し、
千々の秋ひとつの春にむかはめや
もみぢも花もともにこそちれ