伊勢物語 - 002

 むかし、をとこ有りけり。ならの京ははなれ、この京は人の家まださだまらざりける時に、にしの京に女ありけり。その女、世人にはまされりけり。その人、かたちよりは、心なんまさりたりける。ひとりのみもあらざりけらし。それを、かのまめをとこ、うちものがたらひて、かへりきていかが思ひけん、時はやよひのついたち、あめそほふるに、やりける。
  おきもせずねもせでよるをあかしては
   春の物とてながめくらしつ