伊勢物語 - 020

 むかし、をとこ やまとにある女を見て、よばひてあひにけり。さて、ほどへて、宮づかへする人なりければ、かへりくるみちに、やよひばかりに、かへでのもみぢのいとおもしろきををりて、女のもとにみちよりいひやる。
  君がためたをれる枝は春ながら
   かくこそ秋のもみぢしにけれ
とてやりたりければ、返事は、京にきつきてなん、もてきたりける。
  いつのまにうつろふ色のつきぬらん
   きみがさとには春なかるらし

伊勢物語 - 021