むかし、をとこ有りけり。身はいやしながら、ははなむ宮なりける。そのはは、ながをかといふ所にすみ給ひけり。子は京に宮づかへしければ、まうづとしけれど、しばしばえまうでず。ひとつごにさへありければ、いとかなしうし給ひけり。さるに、しはすばかりに、とみのこととて、御ふみあり。おどろきて見れば、うたあり。
老いぬればさらぬわかれのありといへば
いよいよ見まくほしききみかな
かのこ、いたううちなきてよめる。
世中にさらぬわかれのなくもがな
千よもといのる人のこのため