伊勢物語 - 005

 むかし、をとこ有りけり。ひんがしの五条わたりに、いとしのびていきけり。みそかなる所なれば、かどよりもえいらで、わらはべのふみあけたるついひぢのくづれよりかよひけり。ひとしげくもあらねど、たびかさなりければ、あるじききつけて、そのかよひぢに、夜ごとに人をすゑてまもらせければ、いけども、えあはで、かへりけり。さてよめる。
  ひとしれぬわがかよひぢのせきもりは
   よひよひごどにうちもねななん
とよめりければ、いといたう心やみけり。あるじゆるしてけり。二条のきさきにしのびてまゐりけるを、世のきこえありければ、せうとたちのまもらせたまひけるとぞ。