むかし、はかなくてたえにけるなか、猶やわすれざりけん、女のもとより、
うきながら人をばえしもわすれねば
かつうらみつつ猶ぞこひしき
といへりければ、「さればよ」といひて、をとこ、
あひ見ては心ひとつをかはしまの
水のながれてたえじとぞ思ふ
とはいひけれど、その夜いにけり。いにしへゆくさきのことどもなどいひて、
秋の夜のちよをひとよになずらへて
やちよしねばやあく時のあらん
返し、
秋の夜のちよをひとよになせりとも
ことばのこりてとりやなきなん
いにしへよりもあはれにてなむかよひける。