伊勢物語 - 022

 むかし、はかなくてたえにけるなか、猶やわすれざりけん、女のもとより、
  うきながら人をばえしもわすれねば
   かつうらみつつ猶ぞこひしき
といへりければ、「さればよ」といひて、をとこ、
  あひ見ては心ひとつをかはしまの
   水のながれてたえじとぞ思ふ
とはいひけれど、その夜いにけり。いにしへゆくさきのことどもなどいひて、
  秋の夜のちよをひとよになずらへて
   やちよしねばやあく時のあらん
返し、
  秋の夜のちよをひとよになせりとも
   ことばのこりてとりやなきなん
いにしへよりもあはれにてなむかよひける。

伊勢物語 - 023